2010年 第5回大会

いよいよ決戦の火ぶたが切って落とされた!

大会実行委員長の銭谷眞美・東京国立博物館長が選手を激励

 決勝大会は12日午前9時45分からの開会式で始まった。まず大会実行委員長の銭谷眞美・東京国立博物館長が「全国から選ばれた12チームはそれだけで大変な栄誉だ。これまで数々のドラマが生まれてきたが、今回も実りある大会にしてほしい」と激励した。続いて日本財団の笹川陽平会長からの「地元の食材を活かした学校給食を通じ、子どもたちは地域への理解を深め、郷土愛をはぐくむことでしょう。日々栄養バランスや豊かな献立に工夫され、子どもたちに喜ばれる食事を提供する皆様のご尽力に敬意を表する」との祝電が披露された。

東京・檜原村学校給食共同調理場の菅野幸さんが「正々堂々と戦います」と選手宣誓

 選手宣誓は東京都檜原村学校給食共同調理場の菅野幸さんだ。
「私たちは、郷土色豊かな安全で美味しく楽しい学校給食を目指し、子どもたちの笑顔のために日々励んでいる全国の同じ志を持った仲間たちの代表として正々堂々戦うことを誓います」。菅野さんの凛とした声が会場に響いた。

 そしていよいよ調理開始。
しかし調理場に入る前にまずは手の汚れをチェック。石鹸で指の間まで丁寧に洗い、アルコール洗浄も行う。衛生管理は安全な学校給食の一番の基礎だからだ。日ごろの成果か、12チーム全部が検査を1回でクリアした。

調理場では手の汚れも念入りにチェック

調理の真剣勝負がいざスタート!

 1時間勝負の調理が始まった。調理手順を書いた作業工程表に沿って、自慢の給食作りに取り掛かる。生産者が、子どもたちが丹精込めて作った食材。白菜、大根、にんじん、ごぼう、小松菜…。心を込めてカットしていく。「美味しい給食になーれ!」。体で覚えた包丁さばきはプロの証明だ。リズミカルにそして流れるように。

 与えられた時間はあっという間に過ぎていく。揚げ物、煮物は時間が掛かる。油の温度を測る。まだ上がらない。温度計を何度も入れる。「ゆっくり、ゆっくり。焦らなくていいから」。ベテランの栄養教諭が若い調理員に声を掛ける。

 チームワークは審査ポイントでもあるが、作業にとても必要なことだ。「温度98、999…99です」「はい」。互いの作業を確認し合い、作業工程表に記録していく。声掛けは確認の基本。声を掛け、そして目でも合図を送る。信頼するペアでも手は抜かない。気の緩みは安全の敵だからだ。ただ美味しければいいのではない。ただ見栄えが良ければいいのではない。何よりもその前に安全でなければ学校給食ではないのだ。

 25分経過。12台の調理台が並んだ会場を30人近いテレビなどの報道陣や特別審査員2人を加えた14人の審査員も動き回る。ガスコンロの熱や人の熱気で汗ばむほどだ。

 揚げ物から、煮物から美味しそうな匂いが広がる。調理は佳境に入った。「すいとん入れます」。スプーンで一口大にしたすいとんが鍋に落ちていく。唐揚げになるメギスが油の中で泡を吹き出している。

 「味見てください」「うん、美味しい」もあれば、「スプーンに半分醤油を足して」と味を調整するペアもある。「緊張して味が決まらない」の声も上がる。決勝大会の雰囲気が舌を微妙に狂わす。

報道陣、審査員、そして選手たち…。
調理場は熱気と緊張に包まれる。

 温度計がたびたび登場する。温度は安全管理のポイントだからだ。加熱するたびに、盛り付けするたびに温度が測られ、作業工程表に記録されていく。作業は体に染み込んでいる。

 残り時間が25分を切った。揚げ物が終わり始める。早いチームはデザートに取り掛かった。手で料理を盛りつけるときは必ず使い捨ての手袋を使う。徹底した衛生管理が子どもたちを守っているのだ。

 審査員の厳しい目が調理の一挙手一投足を監視する。学校給食のプロの仕事を評価するのだから、審査員も真剣そのものだ。調理はスムーズか、きちんと記録しているか、基礎基本は守っているか、チームワークはいいか。手にした審査用紙に採点が書き込まれていく。

「やれることは総てやった」。
満足とここちよい疲れが選手たちを包む。

 6枚のトレーが調理台に並べられ、主菜、ごはん、汁物、デザートが次々に盛りつけられた。練習を重ねてきた自慢の給食の完成だ。相方はシンクの中で使い終わった調理器具を洗って元の場所に戻す。残り1分。鍋やボウルのぶつかり合う音が大きくなった。整理整頓までが競技だからだ。

 「終了」の声。今年の大会も終わった。出来上がった給食は審査会場となる隣の部屋に運ばれる。隣りのチームと健闘をたたえ合い、笑顔が戻った。「お疲れさま」。全力を出し切ったプレイヤーだけが味わえる至福の瞬間。何回も繰り返してきた練習の疲れも体からすっと消えていく。

 来年3月に定年を迎える福島県鮫川村学校給食センターの調理員、岡崎かつ子さんは、ひとり調理台の上で着用した大会のエプロンを畳んでいた。小さなゴミも指先で拾い、丁寧に丁寧に畳んでいた。「最後の花道になりました」。微笑む表情には33年の調理人人生を悔いなく終える誇りが見えた。学校給食の現場には、こつこつと作り続けるこうした調理員がいる。子どもたちの笑顔を願って日々作られる安全・安心の給食は多くの人に支えられているのだ。