10周年記念シンポジウム

全国学校給食甲子園10周年記念食育シンポジウム開催報告
「学校給食から発信する日本のSHOKUIKU」

  • 第1部 開会挨拶と基調講演
  • 第2部 パネルディカッション:「学校給食から発信する日本のSHOKUIKU」

食育シンポジウム 第2部
パネルディカッション:「学校給食から発信する日本のSHOKUIKU」

● パネリスト
金丸弘美(食環境ジャーナリスト、食総合プロデュサー)
齊藤るみ(文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課学校給食調査官)
宗像伸子(管理栄養士、東京家政学院大学客員教授、全国学校給食甲子園審査委員)
吉原ひろこ(学校給食研究家・料理研究家)
モデレ-タ- 馬場錬成(21世紀構想研究会理事長、全国学校給食甲子園実行副委員長)

司会(大森・学校給食甲子園事務局長)

ただいまより、食育シンポジウムの第2部、パネルディカッションを開始いたします。パネリストの先生方は食環境ジャーナリストの金丸弘美様、学校給食研究家の吉原ひろこ様、文部科学省学校給食調査官の斉藤るみ様、そして先ほど基調講演を頂きました宗像伸子様です。
モデレーターは、全国学校給食甲子園の主催団体、特定非営利活動法人21世紀構想研究会理事長の馬場錬成です。それではパネルディスカッションの進行をよろしくお願いいたします。

馬場錬成冒頭あいさつ

全国学校給食甲子園の主催者である特定非営利活動法人21世紀構想研究会(http://www.kosoken.org/ )は、1997年9月に設立されました。

現在、学校給食甲子園を実施している教育委員会(銭谷眞美委員長)、知的財産委員会(荒井寿光委員長)、生命科学委員会(黒木登志夫委員長)などが活動しており、適宜、テーマによる討論を通じて政策提言集団として活動しております。過去には知的財産委員会で、小泉内閣に知財改革への提言を行い、ほぼ丸のみされる活動もしてきました。

学校給食甲子園は、学校給食現場で日夜活動している栄養教諭、学校栄養職員、調理員の皆さんの活動を知ってもうことと、学校給食を広く理解してもらうこと、そして食育推進に寄与したいとの目的で始めたものです。

本日は、銭谷眞美委員長の21世紀構想研究会教育委員会の主導による学校給食甲子園10回記念の食育シンポジウムであります。パネリストの先生方とフロアの皆様のご意見をいただきながら意義あるものにしたいと思います。それではこれから、パネリストの先生方から冒頭のご発言をいただきたいと思います。最初に金丸先生からお願いいたします。

金丸弘美先生の冒頭発言

2005年、佐賀県唐津市・浜玉中学校で公開学校給食を行いました。栄養士さんが、地域を巡り食材を調達し、地産地消を推進。栄養バランスも地域の食も配慮した給食を作られていました。しかし、地域でなかなか広がらない、知られていない。そこで公開でとなったわけです。

紹介している給食は、100パーセント地元産食材を使ったものです。高価な佐賀牛も入っています。佐賀牛のような高い食材も安い切り落としを使い、里芋の親芋の安い食材と組み合わせて学校給食の1食270円で提供できるようにしています。

公開学校給食といっても一般の方は30人くらいしか入れない。そこで地元の新聞・テレビなどのメディア、「ソトコト」など、取材を11社取り付けました。参加者にもメディアにも、優れた給食を知ってもらうために、給食の考え、栄養バランス、食材の内容などをテキストにして配布し、給食代込み入場料500円で公開学校給食をしたわけです。

浜玉中学校での公開学校給食を行い、各地の学校給食を取材をしてきたことから、各地の給食の集いに呼ばれるようになりました。2014年からは、農水省・学校給食等地場食材利用拡大委員会委員(運営:まちむら機構)になりました。そこで私たちが提案をしたのが、現地に行き合宿をして給食のノウハウを連携する公開給食でした。これは鹿児島県肝付町、福井県鯖江市など、2年間で8か所が実現。全国から行政、栄養士など多くの方たちに参加していただきました。

このなかで、行政の各部署とデータの連携を呼びかけました。学校給食は、子供の健康と栄養バランス、地産地消を掲げて、優れた取組がされています。しかし、給食は年間180食ほど。普段の朝、夜の食事、休みのときの食事は家庭で食べます。普段の食生活と健康を配慮した食事を親も知ってもらう必要があります。そうでないと子供の健康な未来は創れません。

一方、保健課の健康調査のデータをみると、どの自治体や地域でも、医療費が高騰。ガン、高血圧、肥満、糖尿病、若い女性の痩せすぎが目立ちます。また教育委員会のデータをみると小学生低学年でも肥満が約1割、運動不足、夜10時以降でも起きている児童が3割近くあることがわかります。

全体のデータを把握し、医療費を削減し、児童の健康に投資をしよう。未来の子供の健康を創ろうと呼びかけています。

2015年、長野県の朝日村での公開学校給食では、北海道から沖縄まで120人が集まって行われました。地元の農家のお母さんたちが、積極的に給食にかかわり、生産した野菜を提供しています。こういう優れた活動も現場に行かないと学べません。その内容は専門誌・月刊「学校の食事」(学校給食研究会)で特集される予定になっています。

私が講義をしているフェリス女学院大学、明治大学農学部では、八王子にある牧場「磯沼ミルクファーム」を開放してもらい、学生が参加し、ピザやデザートまで創る、フルコースの牧場の料理会を開いています。牧場では、ジャージー、ブラウンスイス、ホルスタインなどが飼われています。牛の品種によるミルクの違い、見た目、味わい、香り、食感などについて学習する「味覚ワークショップ」を開いています。また牛の飼育の環境やエサがどこからくるのかなども学びます。「味覚ワークショップ」をカリキュラム化し実施しているフランス、イタリアのスローフードのワークショップも学びに行きました。

味覚の授業は、五感を使い、食べ物を表現することで、個性を育み、語彙を豊かにしていくものです。また、料理会をするにあたっては、食材の成り立ちや文化的な背景がわからないと、きちんと学生にも、参加者にも伝えることができません。そこで食材のテキストを作成し、料理まで展開をするという食のワークショップを各地で開くようになったというわけです。

鹿児島奄美諸島徳之島での食育シンポジウムでは、沖縄・大宜味村と徳之島との長寿の食の調査を行い、現在の人たちと長寿と言われた世代の人たちが食べていた食材を比較検討することも行いました。というのは、若い世代で生活習慣病が広がり、早世が増えているからです。沖縄も奄美も長寿世代と現代では食べ物も生活スタイルも大幅に変わってきていることがわかりました。

こうした体験から、データをきちんととって、健康の成り立ちをしっかり総合的にとらえることを提唱するようになりました。学校給食は、栄養バランスもしっかり考えられています。その取組と考えを広げようと、公開学校給食を行い、今年も4か所で合宿が予定されています。

齊藤るみ先生の冒頭発言

学校給食は、栄養バランスのとれた豊かな食事を提供することにより、心身の健康の増進や体位の向上を図るほか、食に関する指導を効果的に進めるための重要な教材になります。
給食の時間では、準備から後片付けの実践活動を通して、計画的・継続的な指導を行うことにより、児童生徒に望ましい食習慣と食に関する実践力を身に付けさせることができます。
学校給食の歴史を見ますと、明治22年に山形県で日本初の学校給食が行われ、戦後はユニセフ等からミルクの寄贈を受けてユニセフ給食が開始されました。昭和26年には完全給食が開始され、昭和29年に学校給食法が施行され、平成17年に栄養教諭の配置、食育基本法が施行されました。
学校給食法の第2条にある学校給食の目標には、スライドにあるようなことが書かれています。

これを見ても分かるように、学校給食は単に昼食を提供するのではなく、望ましい食習慣から生命及び自然を尊重する精神、勤労を重んじる態度、伝統的な食文化や生産・流通などの目標を掲げて、教育の一貫として行っています。このような学校給食は世界でも類を見ないものではないかと思います。
次に、栄養教諭の役割についても学校給食法に示されています。こちらの2枚のスライドを見ていただきたく思います。

食に関する指導は、給食の時間や教科等において学校教育活動全体を通じて行います。給食の時間における食に関する指導としては、教科等で取り上げられた食品や学習したことを、学校給食を通して確認させることができます。また献立を通して、食品の産地や栄養的な特徴などを学習させることができ、実践を通して学校で学び、これを家庭での実践につなげることを目指しております。

このスライドは、学校給食を生きた教材として活用するための工夫を示したものです。栄養バランスのとれた魅力ある美味しい給食であること、安全・安心な給食、教科書と関連した献立作成、地場産物の活用などについても工夫することが必要です。
最後に第10回全国学校給食甲子園で優勝したみなかみ町月夜野学校給食センターの優勝献立をお見せしたいと思います。

吉原ひろこ先生の冒頭発言

全国学校給食食べ歩きをしている吉原ひろこです。私が学校給食現場で一番見たかったのは子供たちの顔でした。それと、学校給食現場の栄養教諭、学校栄養職員の先生方、調理員の方々にスポットライトを当てたかったのです。給食に携わられる方々は子どもたちの体を食で作る縁の下の力持ち、本当に大事なお仕事です。私は、それらを見据えた学校給食応援団として活動しています。

学校給食の歴史を見ますと、最初は食べ物が不足していた時代の昼食として始まりました。戦後は占領軍からの救援物資(小麦粉と脱脂粉乳)による学校給食もありました。それからおよそ70年、長い間、パンの給食でしたが、それがこの10年間で米飯給食になってから料理も多彩になり、和食の多い献立になっていきました。
主食が米飯ですと、地産地消の食材を使った、慣れ親しんだ日本の料理や郷土料理がぴったり合います。そこからはっきりと、学校給食が真の「日本の学校給食」として誇れるものに生まれ変わってきたと思います。直近の10年間は、学校給食の一大変革期だったと思います。

この写真はお米のおいしい新潟県の後山(うしろやま)小学校へ行ったときの給食です。文字通り後ろに山が控えている学校です。日本の器での給食です。

こちらは京都の伊根町の小学校でいただいた給食です。この学校は港のすぐ近くにある学校で、その日に取れた新鮮な魚を学校給食に出しています。献立表には、単に魚料理としか書いてありません。その日獲れた魚の調理に合わせて学校給食に出すというぜいたくな学校給食でした。

この学校には和室があり、時々ここで正座して食べることで居住まいを正して食に向かい合います。それにはこのようにお盆と立派な食器があるといいということで、ホテルで使用していた食器類を格安で譲ってもらい、豊かな学校給食が展開されていました。他にも本当に家庭的な献立の学校給食がたくさんありました。

学校給食を食べ歩いて強く思ったことがあります。それは学校給食の時間の持つ3つの「リ」の意味の再認識です。①リラックス、②リフレッシュ、③リセットです。午前中の授業が終わったあとのお昼ご飯の時間は、この3つの「リ」を生かしてこそ、午後の授業に集中でき、能率も上がります。

しかし学校給食の時間は中学校が30分、小学校は長くて45分程度です。この時間内で着替えて、配膳して食べて後片付けですから、あまりにも忙しくてタイトなのが現実です。給食は食育ととらえて、私は給食の時間を1時間にと提案しています。

たとえば東京都内の中学校に行った時、郷土の多彩な食事を味わおうということで、八丈島から早朝届いたアシタバ、トビウオを使ったとても手の混んだおいしい学校給食が出されました。でも時間が足りないために十分に食べられなくて、食べ残しが多く出るというとてももったいないことが起きていました。

短い時間では、リラックスしてゆっくり味わって食べるというのは無理があります。やはり楽しく食べるためにはもっと時間が必要だと思います。また、トレイにきれいに配膳すること、器に丁寧によそうことなどもしっかり教えていきたい大切なことです。

馬場

パネリストの先生方から、大変、興味のある意見発表がございました。ここで食育という概念がなぜ出てきたのか。宗像先生の基調講演であったことを思い出したいと思います。
核家族化、インスタント食品の普及とか、スーパーなどの進出、ライフスタイルの多様化などが指摘されました。大変、的確に分析した内容だったと思います。
宗像先生に質問したいと思います。先生は食事力と言うキーワードで講演され、食事力とは食行動を自己管理することとおっしゃっています。言われてみるとそうですが、それでは一体、何が一番大事なことでしょうか。自己管理で私たちがやってみるべきことの第一は何でしょうか?

宗像

皆さん、朝昼晩と3食食べていますが、この3食全体で食管理になるわけです。この3食をきちんととらないと、必要な栄養素を採れなくなるという恐れが強くあります。自己管理とは食に関心を持ってもらうことと同意語と思っていただきたいと思います。

馬場

食に関心を持つということは簡単なことでありながら、簡単ではない。忙しい時は、貧弱な食事で間に合わせてしまうことがあるわけです。
さて、ここで全国1000か所くらい食の現場を調査・研究しておられる金丸先生にお聞きしたいと思います。先生は、地域食材のテキストを作る活動をしておりますが、典型的な事例をもう少し広げてご披露をお願いいたします。

金丸

2005年に大分県竹田市で食育推進をしたいと言って呼ばれました。ご当地は、豆腐とコメがある。食育ブランド事業と言っていますが、ここで作られているコメは新潟のコメ、山形のコメとどう違うか。品種は、栽培方法は、農薬は、香りや味はどう違いますかと質問したら「分かりません」という回答でした。それでは食育できませんということで、たとえば豆腐の原料の大豆やトマトは2千種以上あります。だから特定しないとその食べ物の本質が分かりません。
学校給食法に文化を伝えると書かれています。たとえば茨城県の常陸太田市のお蕎麦のブランド事業をやったときですが、日本の産地のトップは北海道、二番目が茨城県、三番目が長野県です。ところが茨城県のお蕎麦はあまり知られていませんでした。ご当地にはお蕎麦が16種類ほどあります。実はタバコ栽培が主体でお蕎麦は売るものではなかったのです。
これを売り出したいということで北海道や長野のお蕎麦と品種は、栽培法は、香りと味わいはどう違うのかと聞いたら、ここでも「分かりません」という回答でした。それで売ろうというのはおかしいと指摘しました。
しかもお蕎麦は、昆虫が媒介して受粉をしています。どんな昆虫が受粉していますかと聞いたら、これも「分かりません」と言う。そこで筑波大学と一緒に調べたら70種類も虫が介在している。

そこで栽培時の虫の媒介のことからお蕎麦の種類、味から流通まで学校給食法に書かれている文化・流通まですべて調べて伝えることを目指し、そこでこのようなテキストを作りました。これが生きた食育になるわけです。

兵庫県の豊岡市ではお米を売りたいと相談にきました。コメの消費量が減っているときですからやめなさいとアドバイスしました。ここにはコウノトリが生息しています。コウノトリの食生態から学校給食の内容、なぜコウノトリが戻ってきたのか、それは農薬を使わなくなったからです。農産物の植生から生息する魚や昆虫などの生態まで知らなければ食育もできません。それでテキストを作って食育に役立てるという活動です。

馬場

食育に役立てるテキストの作る過程を聞いてびっくりしました。基本的で詳しく情報を整理していかないとテキストはできないことがわかります。さらにテキストに沿った食育、ブランド戦略も効率よく出来ないということを知りました。
さて、吉原先生にお聞きしてみたいと思います。先生は、全国の学校給食のカレーライスを食べ歩いていましたが、なぜカレーライスなのかお聞きしたいと思います。

吉原

子供たちにとって学校給食で一番人気があるのがカレーです。好きだから何を入れても食べてくれる。つまり嫌いなものでも食べてくれるのです。そして全国には地元の食材に合わせ、季節に合わせた食材で作ってくれるカレーがあります。富山県では自衛隊カレーがある。聞いてみると、最後にインスタントコーヒーを入れる特製のカレーだったりします。
カレーに限らず学校給食を食べ歩くのは、それぞれの学校で工夫しておいしい学校給食を作る現場に立ち会うことができるからです。バランス良くおいしい学校給食は児童・生徒の家庭にも広がっていき、食育へつながっていくのです。

馬場

斉藤先生は学校での食育は、栄養教諭や学校栄養職員だけがやるのではなく、学校全体で取り組むというのが大事とご指摘されています。特に文部科学省で全国の学校に要求している学校での食育とは、どのような活動を展開していくべきなのでしょうか?

齊藤

一言で申し上げるのは難しい質問ですが、全教職員が食育の重要性を理解し、共通認識のもと学校全体で進める必要があると思います。給食の時間を中心にしながら、教科や学校の活動を通して教職員が組織的に一体となった取り組みが必要になってきます。年間の指導計画を作ることで食育の実効性が高まります。
また栄養教諭、学校栄養職員が作る献立も、教科と連携でき、食に関する指導に活用できる献立が求められます。

馬場

先生の言葉では正統な内容で、一般的には分かりにくかったように思います。そこで私が理解していることを申し上げますと、理科、社会、道徳、家庭科など科目によって、食育を教えています。その教科に対応する教材を昨年度、文部科学省が作成しました。完成したものは、文部科学省のホームページからダウンロードで誰でも入手して使えるようになっています。
いまはインターネットで、自分で教材を入手して使うことになります。その教材を作成するときに中心的にかかわってきた全国学校栄養士協議会副会長の駒場啓子先生が、会場にいらっしゃいます。駒場先生に、学校での食育をどのように取り組むべきかをご意見をお聴きしたいと思います。

駒場

齋藤調査官が仰る通りに学校全体で取り組むということだと思います。教材は、学校全体で活用しようという視点から作成したものです。個々の先生方も食育に取り組もうという視点はあると思いますが、どのようなやり方が食育として最善かは模索していると思います。そのような先生方の参考になる教材を目指して作成したものです。

馬場

駒場先生、ありがとうございました。吉原先生にお聞きしますが、毎年、フランスに行かれていますが、フランスの学校給食はどのようなものなのか、日本の学校給食と比較するとどんなものなのか、先生のご感想をお聞きしたいと思います。

吉原

フランスは、高校までの授業料は無料、廉価で学校給食を提供しています。税金が高いからかもしれません。フランスの人たちは、「子どもに食べ物を与えるというのは親の権利だ」と言い、その代わりに食べさせる責任も伴いますので、まかせっきりではありません。またフランスでは、食事は教室で食べるものではなく、ランチルームで食事にきちんとと向かい合って食べるべきだという考え方なので、日本でやっている教室で食べることを不思議だと言っていました。
日本でも、すべての学校にランチルームができることを願っています。

これはある中学校の学校給食のメニューです。ちゃんと給食時間が1時間あります。日本と違って順番に食べます。前菜は冷たい料理が、それからメインには温かい料理が。チーズが出て、必ずデザートがつきます。学校給食の中にも、国の食文化を守り、食の基本を示すという目的が強くあるように感じます。

金丸

マイケル・ムーア監督の映画で「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」(2015年アメリカ)という映画の中に、フランスの学校給食が出てきます。アメリカは戦争ばかりやって何も解決できなかった。だから世界戦略に行こうというのでまずフランスに行き学校給食に出会います。「フレンチポテト食べているが、そんなもの誰も食べていない」と言って冷蔵庫あけてみるといろんなチーズが入っている。カマンベールがおいしい。フランス人はこんなにおいしいチーズ食べているの、これなら侵略するに値するというシーンが出てきます。
次にアメリカの学校給食を見せたらフランスの子供たちが「まずそう」と笑うシーンがあります。
ちなみに日本でもランチルームを持っている学校がいくつかあります。

吉原

私が行った学校では、給食の時間は、450人の生徒数に対して13人、食事をサポートする人が入り、その人たちが子供たちに食事のマナーなどを指導していました。このようなことができるのも、税金が高いからというだけではなく、むしろ、食事というものを大事な時間と位置付けているからだと思います。

馬場

世界三大料理に日本料理が入るのか、従来から言われているトルコ料理が残るのか。そのような話題が出ていますが、世の中グルメ時代です。ミシュランのランキングは世界的にもてはやされています。一方で味覚を科学的に解明して、おいしいものを料理人の腕ではなく化学的な分析手法でうま味を作ってしまう。そのような時代が見えてきたようにも思います。
このようにグルメ時代の食事力とは、どのように理解するべきでしょうか。
あるいはグルメと食事力は、あまり関係ないということでしょうか?

宗像

大変難しい問題ですね。確かにフラスコの中で操作して簡単においしいものを作るというような話題がありましたが、食の文化に戻って考えてほしいと思っています。
グルメの話で思い出しますのは、若い時代に勤務していた病院は、政界、財界、芸能界の患者さんが多く、全員が栄養士で給食を出していました。グルメ好きの患者さんの口に合うよう、早番が終わった後、和食は築地の料亭に、また、その頃は欧米人も入院していましたので、イタリアやフランスからシェフが来日すれば講習会に出たりして、舌を肥やしたものでした。若いときにおいしい味を覚えることは、それからの人生に大変に役に立つと思います。その頃、有吉佐和子さんが時々入院されていて、「このカレーライスは秀逸です」というメッセージをいただいたことが思いだされます。
グルメというと、動物性脂肪やたんぱく質の多い食事と思われがちですが、1日に適量な食品と量を把握していれば、グルメ志向の方でも健康を維持できると思います。食事力をつけるために、1日にどんな食品をどのくらいとったらよいかを話をしましたが、もっと簡単に言えば、献立のスタイルとして主食、主菜、副菜の皿数を整えることで栄養素バランスがとり易くなります。このようなとり方であれば、グルメの方でもそうでない方でも食事力はアップすることができます。しかし、朝食をとらない、昼食を簡単なもので済ませてしまう、という食事パターンは、栄養素の偏りがでて、食事力の低いものになってしまいます。

金丸

ただ、グルメイコール健康とはならないと思います。

宗像

グルメの方でも、食事力を身につけていただければ健康な食事をとることができると思います。

金丸

フランスで言う美食(ガストロノミー)とはただ料理のことではなく、経済、健康などすべての科学的な背景を持ったものが美食と言っています。味覚、視覚など5体を全部含めて考えないと脳の活性化には結びつかないと語っています。そこまで考えないと食育にならないと思います。

吉原

先ほど馬場先生からおいしさを化学的に分析する時代も来るのではという危惧を語っていました。確かにおいしさを分析して化学的に合成することが可能な時代に来ていますが、学校給食に限っては、そのような安易な方法ではなく、伝統的な調理法と地場産物の食材で、今まで通り安心安全な給食を提供してほしいと思います。

馬場

はい、その通りだと思います。斉藤先生にお伺いします。斉藤先生は、文部科学省の初等中等教育局学校健康・食育課の学校給食調査官をされております。中央行政官庁で食育という文字が入った部署としては初めてのものと思います。学校の各科目の先生方や専門の先生に食育について期待しているものはございますか?

齊藤

先ほどの説明と重なるところがございますが、教員一人一人が食の大切さを理解することが食育につながっていくと思います。
以前は私も学校に勤務しておりましたが、例えば地場産物を活用することは新鮮な食材の利用につながり、食材本来の美味しさを子供たちに伝えることができます。
食育の重要性を教員も一緒になって共有するという意識を一番期待したいと思っています。

馬場

会場からご意見をお受けしたいと思います。第10回全国学校給食甲子園で優勝した群馬県みなかみ町月夜野学校給食センターの栄養教諭、本間ナヲミ先生にお伺いしたいと思います。
本間先生が日ごろからとりくんでいる学校給食と食育とはどのように結び付いているのか、その活動について現場からご意見をいただきたいと思います。

本間

これまで先輩の学校栄養士の先生方にご指導受けて、ここまでやってくることができました。その中で、学校給食でいいものを出さないと児童・生徒の指導はできないよと言われました。作っている学校給食がいかに授業に取り入れられるかということを意識しています。いつ授業に取り入れてもらっても教材になる給食を出したいと思っています。いろいろな能力や特性を持っている子供たちがいますが、その子らだけでなく教員にも受け入れられる給食が大事だと思って日ごろから取り組んでおります。

馬場

有難うございました。さすがに優勝栄養教諭のコメントでした。
それでは最後にパネリストの先生から「私と食活動」として最後の一言を語って締めたいと思います。

金丸

子供たちに健康な未来を手渡すことです。自分の子供と同年齢の子供の3割以上にアトピーの子がいました。いま女子大で授業をしてアンケートを取っています。体調不良の子が6割あります。きちっとしたバランスのいい食事をとっていない。ダイエットが一番になっているので朝食を食べない、運動はしていないという比率が高くなっています。
学校給食だけでは健康を保てない。親も地域も生産者も含めてトータルで食育に取り組み、その中で学校給食がどれだけの位置づけになるかを認識したい。今後も公開学校給食、テキスト作りを続けたいと思います。

齊藤

一言で言えば子供の心身の健全な育成です。学校給食は食育の中心として重要な役割を担っています。学校給食関係者は学校給食に携わっていることに誇りと責任をもって、取り組んで頂きたいと思っています。

宗像

一人ひとりが食の味に関心を持っていただきたい。味付けにこだわることでも、よりおいしい給食が出せると思います。ときにはおいしいと言われるお店などで舌を養っていただければと思っています。

吉原

給食は子どもたちのために作ると言うことです。教育に携わる人たちが勉強する大学の教育学部に食育科ができるといいと思います。

馬場

本日は、各界のご専門の4人の先生にお集まりいただき、楽しいシンポジウムになったと思っております。私の考えを述べますと、食育とは、学校給食、家庭、地域社会、文化という局面から生まれてくるものだと思い、私たちは新しい概念としてとらえていかなければならないと感じました。
それと食に関心を持つということは簡単ですが非常に難しいということが、日ごろからの行動を通じて感じております。食の関心の究極のところにグルメがあるのでしょうか。
本日のシンポジウムを通して、日本の食文化は伝統的で歴史的な重要なものが流れていることを感じました。この重要な要因を大事しながら、世界でどこもやっていない食育を世界に発信していきたいと思いました。
最後まで熱心にお聞きいただき、有難うございました。

司会

それでは最後に閉会の言葉を全国学校給食甲子園実行委員で公益社団法人全国学校栄養士協議会会長の長島美保子からお礼とご挨拶を申し上げます。

長島

本日は暑いさなかに学校給食10周年記念の食育シンポジウムにお運びいただき、有難うございました。基調講演のあと第一線のパネリストによる学校給食および子供たちの食をめぐる様々な課題について示唆をいただき、またご提言をたくさんいただきました。
皆さんともに大変、有意義な時間を共有できたことを嬉しく思っております。学校給食が子供たちの心身の健康に寄与するとともに、合わせて食育の重要な現場になっております。それを担うのが私たち栄養教諭、学校栄養職員の献立力であります。
全国学校給食甲子園が長きにわたってその資質向上に大きく寄与しているものと確信しております。また、今後に期待したいと思います。
先般、第3次食育推進計画が策定されました。この中で中学校給食の推進が示されており画期的な国の施策と思っております。中学校の学校給食の実施率をいずれ90パーセントに高めるというものです。
世界に冠たる学校給食であります。これがさらに発展するためにも全国学校給食甲子園は重要なものと考えております。今後とも皆様のご協力をお願いして閉会の挨拶とします。
本日は有難うございました。

第1部 開会挨拶と基調講演